障害対応の「優先順位」を仕組みにできないか — Operation Decision Recordsという着想
🔗 元記事: Zenn — 障害対応の「優先順位」を仕組みにできないか - Operation Decision Recordsという着想
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記事の概要
Zennの記事(著者: YOSH氏、2026/08/15公開)。ソフトウェア設計世界の ADR(Architecture Decision Records) にならって、障害対応・運用現場での意思決定を記録する ODR(Operation Decision Records) というプラクティスを提案する構想段階のアイデア記事。運用の暗黙知を「言語化してシステムに埋め込む」ことで、AIエージェント時代のインシデント対応を支える足場を作ろう、という挑戦的な内容になっている。
問題意識:障害対応の判断は「暗黙知」に依存している
- 障害対応の現場では、可用性 vs データ整合性、ロールバック vs 縮退運転といったトレードオフ判断が常に求められる
- こうした判断はドキュメントではなく個人の経験則(暗黙知)に委ねられがち。ベテランの勘は担当者が変わればブレるし、深夜の新人オンコールには再現できない
- AIがアラート対応・インシデントの一次判断を担うようになると、この暗黙知が壁になる。AIは「このサービス特有の正しい判断」を知らない
- 例:「CPU使用率90%超」は一般論ではエスカレーション対象だが、深夜帯の日次バッチ由来なら静観が正解——こういう判断はモニタリングツールにもRunbookにも書かれておらず、Slackスレッドの奥にしか存在しない
- 人間の新任オンコールなら「隣に座って教える」ことができるが、AIにはそれができない。→ 暗黙知をコンテキストとして渡す仕組みが必要
提案:ADRがあるなら、ODRがあっていい
ADRの価値は決定そのものよりも「なぜ」が残ること。運用にも同じ構造の意思決定が日々発生している(「このアラートは深夜なら静観する(なぜ?)」「AよりBの復旧を優先する(なぜ?)」)。これをADRと同じ思想で記録するのがODR。
| ADR | ODR | |
|---|---|---|
| 対象 | 設計・アーキテクチャの決定 | 運用・オペレーション上の判断 |
| 決まるタイミング | 設計時・レビュー時 | インシデント対応、アラートトリアージ、ポストモーテムの中 |
| 主な読者 | 開発者 | オンコール担当者、そしてAIエージェント |
| 古くなる速さ | 比較的遅い | 速い(トラフィックパターンや構成の変化で前提が崩れる) |
フォーマット:軽量さを最優先
書くコストが高いと、いちばん記録してほしい「インシデント直後」に書かれなくなるため、軽量なフォーマットを志向。Uber Eats風のフードデリバリーを例にしたサンプル「ODR-0003: 配達員GPSロスト時は30分様子を見てから自動返金へ切り替える」では、以下のフィールドを含む:
Status: Accepted Date: 2026-11-02 Review-by: 2027-05-02 # この日を過ぎたら前提を再検証する Scope: service-delivery / alert: courier-g...
- Review-by(見直し期限)を必ず付ける — ODRは前提が崩れやすく「腐りやすい」性質を持つため
AIへのコンテキストとしてのODR/人間にこそ効く
- ODRをAIエージェントに与えることで、「このサービスでは深夜のCPUスパイクは静観」といった判断根拠を機械可読な形で渡せる
- 人間側にも効果がある: 判断の背景が文書化されることで、担当交代・新人教育・事後レビューの一貫性が保たれる
正直な見積もり:規模が大きくなると破綻するはず
著者は楽観視しておらず、ODRの鮮度劣化が人間の改訂速度を上回った時点で「かつて正しかった判断の博物館」になると指摘する。レジリエンスエンジニアリングの「work as imagined(文書が想定する仕事)と work as done(現場の実際)は必ずズレる」という考え方とも一致し、古くなったODRはこのズレを文書に固定してしまう。
大規模組織で成立させる条件(推察)
- ODRのPaved Road化 — markdown手書きは捨て、インシデント管理ツールにODR作成を組み込む。AIが判断ログから下書きを自動生成し、人間は承認のみ。鮮度管理もアラート定義変更と連動した自動失効へ
- 「ODRの数」を減らす方向のKPI — ODRの相当数はアラート設計の失敗の埋め合わせ。顧客体験に直結するトップレベル指標でアラートを設計し直せば不要になる。「ODRが増え続けるのはシステムが判断を求めすぎているサイン」
- 手続き化の境界線を引く — 閾値で書ける定型判断はODR化→自動化へ吸収。「毎回考え直す非定型判断」は人間の適応力に残す。ODR化を試みて条件が書けなかった判断こそ、人間が本当に向き合うべき問題
まとめ・著者の姿勢
- 「AIに何を判断してほしいか」を人間側が言語化しておかないと、運用は結局AIに任せられない
- SREの仕事は「自分が判断すること」から「判断基準をシステムに埋め込むこと」へ移っていく。ODRはその移行の一歩
- 万能の道具ではなく、手続き化できる判断とできない判断を仕分け、前者を自動化へ送り、後者に人間の適応力を集中させる仕組みとして使うのが本質
- 著者は「まずはポストモーテム1件から、判断を1枚書き起こすところから始める」と、小さな一歩を提示